前々回,前回と数学の勉強法について述べてきています。
主に大学受験生(高校数学)を対象にしています。
私は,数学学習のステップを
- 問題を解く最低限の力を養う段階
- 入試問題を突破する力を養う段階
- 入試問題を枠を超え,発展的な内容を学ぶ段階
に分けてみました。
今回は,三つ目(入試問題を枠を超え,発展的な内容を学ぶ段階)について述べます。
大学に入っても通用する力
入試にとどまらない学力を身につけることで,大学入試においてもさらなる得点力に結びつきますし,大学以降でも通用する力になります。
第三の段階は,こうした発展的な数学力を身につける方法の話です。
大学受験の最も直接的な対策は,参考書や問題集,それに過去問に取り組むことでしょう。
しかし,それだと(学力的にも,得点的にも)上限が存在します。
入試問題が簡単な大学ならともかく,東大入試レベルになると,いくら問題集をやっても,あるいは過去問演習を網羅しても,得点の伸びには限界があるのです。
東大の先生方からすれば,大学受験のテクニックを身につけている人よりも,その先のことも見つめている生徒を欲しがっているはずで,入試問題もそうした生徒が良い点を取れるようになっているはずです。
ですからただの「受験勉強」しかしてこなかった人というのは,「その先のこと」が身についていないため,いくら勉強してもあるところより上にはいけないのです。
「入試より先のこと」とは何なのか
では,「その先のこと」とはいったい何なのか,そしてそれを身につけるにはどうすればよいのか,数学に限ってお話しします。
微分を例にあげましょう。
数学の問題集などで微分の章を見てみると,意味がなさそうなただの多項式を微分し,極値を求めたり変曲点を求めたりするわけです。
そうした問題は微分の演習にはなりますが,微分という計算が科学の世界や実社会でどのように利用されているのかは全く分かりません。
極値を求めるというのは,たとえばエネルギー的に最も安定である点(平衡点)を探すことに相当します。
物理現象の終着点は,基本的にエネルギーが極小である点になりますから,微分して極値を求めることでその終着点を知ることができるのです。
こうした応用例を知ることで,皆さんにとって「数学」の印象は大きく変わることでしょう。
今まではただ受験のための一科目に過ぎなかったのが,世の中のいろいろな現象を記述する重要な「言語」へと変貌するはずです。
すると,数学で習得する技術が現実的にどのような意味を持っているのかを知ることができます。
たとえば微分だったら「極値を求めるための手段」でしょうし,積分だったら「面積や体積を求めるための手段」(もちろんこのほかにも意味はありますが)といえます。
数学的技術の意味を知ることは,入試においても有意義ですし入試後も重要です。
入試においては,解法までの道筋を立てやすくなります。
技術の意味を知っておくことで,出題意図が察しやすくなるためです。
東大に限らず入試問題は当然分野横断的ですから,すぐには解法が分からないことが多いです。
そんな中で解法に悩む時間を少なくすることができれば,入試においてかなり有利になりますよ。
また,高校の物理では微分や積分を扱いませんが,大学入試の物理でも微分・積分を用いたほうが簡単である問題はいくらでもあります。
微分や積分の意味を正しく利器していれば,他の科目でも数学を駆使できるため,数学以外の点数も上がること間違いなしです。
入試後においては,大学の勉強の理解がものすごく容易になることが期待されます。たとえば,大学の物理では微分や積分が山のように現れます。
大学受験までで微積分の意味をよく理解しておけば,大学以降,数学以外の科目で微積分が出てきてもへっちゃらです。すんなり内容を理解できることでしょう。
大学受験の枠を超えた発展的な話題を学ぶことの重要性,お分かりいただけたでしょうか。
発展的内容を学ぶには
では,こうした応用を学ぶにはどうすればいいのでしょうか。
一つは,興味があったら大学以降の教科書を読んでみる,ということです。
高校までの勉強では,数学は数学,物理は物理,化学は化学といったふうにその科目の中だけで完結していましたが,大学以降はそれらの境界線がだんだん薄くなっていき,物理でも数学を用いるし,化学でも物理を用いるし…といったように学問間の関係性が非常に強くなります。
したがって大学以降の教科書を読んでみると,いま自分が学習している内容が,他の学問分野で,あるいは実社会でどのように活用されているのかがよくわかり,幅広い応用性を養うことができます。
たとえば,高校までは存在しない重要な学問分野の一つに「工学」というものがありますね。
工学は,数学や物理,化学などがどのように役立てられているのかを見る恰好の例だと思います。
工学では,大学受験まで,あるいは大学入学後に学んできた様々な知識・技術が駆使され,人間社会を豊かにするもの(建築,機械,ロボットなど)が作られています(いま挙げたものはほんの一例ですが)。
工学に関係する教科書を読むことで,「あ,こんなところにも数学が使われているんだ!」ということが分かります。
応用性の養成にもつながりますし,今後の学習のモチベーションにもなることでしょう。
もう一つは,Newtonなどの科学雑誌を読んでみることです。
ほんとうはNatureやScienceなどでも良いのですが,それらは内容自体がかなり高度で私も正直すらすら読めるものではないので,とっつきやすい科学雑誌で良いと思います。
たとえばNewtonだったら月刊誌もありますし,別冊と題したテーマ別のものもあります。
月刊誌のほうはいろいろな分野の内容が,研究者レベルでない人にもわかり易く示されているため,興味があれば定期購読してみるのもアリでしょう。
別冊のほうは,たとえば「iPS細胞」や「ヒッグス粒子」といったふうに,一つのテーマについてわかり易く述べられています。
Newtonの何よりの特色は,見やすい図表が多いということです。
図は基本的にオールカラーですし,文字も程よい大きさなので,読んでいて非常に楽しいです。
学術的な,詳しい内容に踏み込むにはこの別冊だけでは足りないでしょうが,入門書として,あるいは単に読み物としては大変優秀であると思います。
私も何冊か別冊を持っています。値段は結構高いのですが,興味があったらぜひ買ってみてください。
Newtonは,学術誌というよりも大衆向けの読み物という色が少々強い(特に別冊)ので,それで物足りない人は,先ほど述べたような本格的な学術誌を読んでみてはいかがでしょうか。
購読する必要はありませんから,自分が興味を持っている分野の論文が掲載されている号だけでも買って読んでみると,いい勉強になると思います。
「いい勉強になる」というのは,受験においても,東大入学後も役に立つ,ということです。
受験においても,今まで自分が勉強してきたことが実際の研究現場でどのように生きているのかを知ることができますし,そもそも最先端の話題・研究に触れることは,自分の知見を広める上で大きな助けとなります。
もしかしたらそういう雑誌等を読んでいるうちに,将来の夢が定まることもあるかもしれませんね。
将来研究者を目指そうと思っている人や,研究者ほどではなくとも科学に携わって生きていきたいと思っている人にとって,論文に触れておくのは非常に重要なことです。
科学者たちの論文を読めば,自分の考え・研究を他者に伝えるコツを学ぶことができますし,論文を執筆する際の細かいお作法(構成や文法など)も身に付きます。
受験に役立たないから,といって受験勉強の世界の中だけで完結してしまうのはあまりに勿体ないです。せっかく勉強するなら,最先端の研究内容などの眺めつつ,楽しく学んでいきたいものです。
まとめ
数学の話はこれくらいにしましょう。ずいぶん長くなってしまいましたね。
教科書や参考書の問題演習をする段階では,最初は丸写しなどでも構わないので,最終的に自分一人で導出ができるように努力しましょう。
入試向け演習では,過去問等を時間を計って本番同様に解くのも大事ですが,各問題の復習も欠かさずに。
入試向けの勉強が一段落して余裕が出てきたら,入試の範囲だけにとらわれずに,最新の研究内容などに積極的に触れてみましょう。
順番を間違えずに落ち着いて勉強していけば,成績は必ず上昇します!
