前々回・前回と物理の話をしてきました。
今回はその続きで,熱力学・電磁気学について述べます。
高校物理の熱力学をいかに勉強するか
熱力学というのは,超大雑把に言えば「マクロな力学」といった感じです。
たとえば気体は,10の23乗個というオーダーの気体分子の集合体です。
気体分子一個一個について運動方程式を立てて解くことは原理的には可能ですが,実質的には不可能だというのはお分かりいただけるでしょう。
私たちは受験の物理で,二つの物体の衝突問題などを取り扱いますが,それよりもはるかに大変です。
少なくとも三体問題でもヒイヒイ言っているような我々人間には絶対に不可能です。
その変わり,全ての気体分子を巨視的に(マクロスコピックに)見たときの性質を考えるのが熱力学です。
気体の温度や圧力,体積などは気体全体を見たときの巨視的な量ですよね。
これらの物理量には,(勉強した人ならわかると思いますが)数学的な関係があります。
また,熱力学第一法則のように,エネルギー保存則のような法則も存在します。気体分子一個一個を見ているときりがありませんが,巨視的な物理量を考えると様々な法則が見えてくるのです。
熱力学を学ぶ上で重要なのは大きくわけて次の三つです。
- 分子や原子一個一個の挙動に着目する
- 「仕事とはなにか」を理解すること
- 「可逆とはなにか」を理解すること
分子や原子一個一個の挙動に着目する
熱力学はマクロな視点で系を眺めるのが基本ですが,分子一つ一つの挙動に着目するのも重要です。
たとえば定積変化で温度を上げると圧力は上昇します。
これはなぜかというと,温度が上昇すると分子一つ一つの運動が激しくなり,壁をより大きな力積で押すからです。
個々の分子に着目しないとこのような考えは浮かびません。
世の中にある物質はすべて原子の集合体ですから,物体の性質は当然それを構成する原子の性質に依存します。
たとえばある物質の熱容量を考える際は,その物質中の原子一つ一つに目を向けることが不可欠です。
熱力学第一法則など,熱力学で出てくる数式のほとんどはマクロな系でのものですが,基本はあくまでミクロの世界だということを忘れないようにしてください。
「仕事とはなにか」を理解すること
二つ目のポイントは「仕事」という概念の理解です。
熱力学はその名のとおり「力学」なのです。
たとえばエンジンは昔から世の中にとって欠かせないものですが,これも熱力学を利用しているといえるでしょう。
最近のものでいえば,たとえば原子力発電は水蒸気を用いてタービンを回転させ電力を生産していますが,これはまさに水蒸気が仕事をしていることになります。
このように熱力学は,実は私たちの身の回りでものすごく役に立っているのです。
高校で勉強する物理の中で,電磁気学と並んで一番日常生活に寄り添った学問といえるかもしれません。
仕事をするのは多くの場合気体ですが,気体のサイクル(カルノーサイクルなど)のP-V図を見たときに,一回のサイクルでどれくらいの仕事をするのか,また熱効率はどれくらいか,といったことをすぐに計算できるようになる必要があります。
仕事や熱効率の概念をよく理解することで多くの入試問題を解けるようになりますし,実社会での応用も可能になります。
「可逆とはなにか」を理解すること
三つめは「可逆とはどういうことか」を理解することです。
可逆・不可逆は,主に熱力学第二法則に関係する内容です。
すでに熱力学を勉強した方ならわかると思いますが,熱力学第二法則は高校ではほとんど扱われないないようです。
実際,学校教科書にも熱力学第二法則に関する記述はあまり多くありません。
しかし,「熱効率」や「断熱変化」を詳しく学習していくと,必ずこの「可逆・不可逆」という概念が登場します。
説明するときりがないほど難しい考え方なのでここでは説明しないことにしますが,熱力学やその先に待ち構えている「統計力学」などを学ぶにあたり,この考えは避けて通れません。
超簡単にいうと「ミクロにみると可逆な過程であっても,マクロにみると時間的な一方向性(不可逆性)が生じることがある」ということになります。
興味があったら,「可逆」や「エントロピー」といったワードで検索してみるとよいと思います。
以上,熱力学を学ぶ上でのコツでした。
個人的には,熱力学は受験生に嫌われやすい分野である印象です。
私自身もはじめは熱力学は嫌いでしたが,ちゃんと勉強していくにつれその奥深さを知り,どんどん引き込まれていきました。
いま熱力学が苦手,あるいは嫌いな人でも,受験勉強にとらわれず積極的に勉強していけば,次第にその魅力に気づくはずです!
高校物理の電磁気学の勉強法
次は電磁気学の話をしましょう。
高校の電磁気学ではクーロンの法則や電場・電位から始まり,コンデンサーやコイル,それに交流回路などを勉強します。
電磁気学で大事なことは「力学との対比」「感覚と数式の組み合わせ」です。
力学との対比
電磁気学は,力学と似通っている点が多いです。
たとえばクーロン力は保存力なので,力学で習ったポテンシャルを定義できます。
またクーロンの法則は万有引力の法則と同じ形をしています。
重力が(質量)×(重力場)の強さなのに対し,電荷が受ける力は(電荷)×(電場の強さ)で計算できる点も似ています。
こうした対比を頭に入れておけば,細かい公式等をいちいち頭に入れる必要が無くなりますし,物理のより深い理解につながります。
前述の通り物理をいくつかの分野に分けているのはあくまで便宜上の話です。
感覚と数式の組み合わせ
次に重要なのは「感覚と数式の組み合わせ」です。
電磁誘導の法則を思い浮かべてください。閉曲線を貫く磁場が変化すると,その時間微分に相当する量の起電力が生じるのでした。
ただ,その起電力がどちらの向きに生じているかは,数式で処理すると混乱してしまいます。
「磁場の変化尾妨げるように起電力が生じる」という風に感覚でとらえておけば,このような混乱は避けることができます。
簡単に言うと,定量的なものは数式で求め,定性的なものは感覚で求めよう,ということです。
どの分野でも活躍する「微分・積分」
全分野に共通していえること
物理のいくつかの分野について,個々に学習のポイントを述べましたが,最後にひとつ,全分野に共通していえる重要なポイントを述べたいと思います。
それは何かというと,「微分・積分を積極的に駆使しよう」ということです。
運動方程式や電磁誘導の法則などは,実は微分を用いた表式になっています。
また,熱力学で気体がした仕事は積分で求められます。例を挙げるときりが無いのですが,本来微分・積分なしには物理は展開できません。
しかし,数学の教育課程の問題もあって,高校物理では基本的に微分・積分が登場しないように構成されています。
物理の教科書をお持ちであればいま見てほしいのですが,強引に微分・積分を排除したつくりになっているのです。
最初のうちは「別に微積分を使わなくても問題ないじゃん」と思うかもしれませんが,勉強をしていくにつれ微積分なしに物理を考えることは絶対にできなくなります。
絶対にです。
実際,大学以降の物理ではバンバン微積分が登場します。
高校物理では微積分が登場しないので,それを用いなくても確かに問題は解けます。
大学受験も突破できるはずです。
しかし,そのまま大学に入ってしまうと,皆さんはきっと大きなカルチャーショックを受けることでしょう。
「微積分って数学の授業で出てくるものじゃないの?なんで物理で…」と困惑してしまうわけです。
微積分を駆使したほうが,問題が簡単に解けるのみならず,物理をより容易に理解できるようになります。
それなのに高校物理で微積分を使わないのは勿体ない。
そこで,皆さんには物理でも積極的に微積分を用いてほしいのです。
単振動の運動方程式でも使えますし,交流回路の電流を調べるときにも使えます。
高校物理程度であれば,正直全て微積分でなんとかなります。いまのうちに練習しておいたほうが絶対に得です。
これが,物理を学ぶ人に私が最も伝えたいポイントです。
もちろん,すでに述べた通り「感覚」も大事にしてくださいね。
感覚,そして数学的な処理。
いずれも身につけば,正直大学入試の物理は超簡単です。
自分が物理が得意だからって調子に乗りやがって,という声が聞こえてきそうですが,これは決して大げさに言っているのではありません。
今までのポイントをちゃんとこなせば,大学入試でも物理を得点源にできます。
どんどん点数を稼いじゃってください。
